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佐藤富徳が発明した特許出願リスト
 

◆水系スラリーおよび第4級アミン化合物

(書誌+要約+請求の範囲)

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開平10−287866
(43)【公開日】平成10年(1998)10月27日
(54)【発明の名称】水系スラリーおよび第4級アミン化合物
(51)【国際特許分類第6版】
C09K 3/18 103
C04B 20/10
// C25D 15/02
C04B103:65
【FI】
C09K 3/18 103
C04B 20/10
C25D 15/02 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】FD
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願平9−110265
(22)【出願日】平成9年(1997)4月11日
(71)【出願人】
【識別番号】000000284
【氏名又は名称】大阪瓦斯株式会社
【住所又は居所】大阪府大阪市中央区平野町四丁目1番2号
(72)【発明者】
【氏名】掛川 宏弥
【住所又は居所】大阪府大阪市中央区平野町四丁目1番2号 大阪瓦斯株式会社内
(72)【発明者】
【氏名】田尻 博幸
【住所又は居所】大阪府大阪市中央区平野町四丁目1番2号 大阪瓦斯株式会社内
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 富徳
【住所又は居所】大阪府大阪市中央区平野町四丁目1番2号 大阪瓦斯株式会社内
(74)【代理人】
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 恒彦



(57)【要約】
【課題】 良好な撥水性を付与可能な撥水剤として利用することができ、しかも水系の各種材料との馴染が良好なスラリーを実現する。
【解決手段】 水系スラリーは、水系分散媒と、フッ化化合物に基づく撥水性が表面部分に付与された撥水性材料とを含んでいる。撥水性材料は、水系分散媒中に分散されている。ここで、フッ化化合物は、例えばモノフルオロカーボン構造および酸無水物構造のうちの少なくとも1つの化学構造を含んでいる。また、フッ化化合物は、例えば、モノフルオロカーボン構造を有する芳香族フルオロカーボン類およびその誘導体からなる群から選ばれた少なくとも1種である。さらに、フッ化化合物は、例えばフッ化ピッチである。



【特許請求の範囲】
【請求項1】水系分散媒と、フッ化化合物に基づく撥水性が表面部分に付与された撥水性材料とを含み、前記撥水性材料は、前記水系分散媒中に分散されている、水系スラリー。
【請求項2】前記撥水性材料は、コアと、前記コアの表面に配置された前記フッ化化合物による撥水層とを有し、前記コアは前記フッ化化合物と化学結合可能な官能基を前記表面に有している、請求項1に記載の水系スラリー。
【請求項3】前記フッ化化合物が、モノフルオロカーボン構造および酸無水物構造のうちの少なくとも1つの化学構造を含んでいる、請求項1または2に記載の水系スラリー。
【請求項4】前記フッ化化合物が、前記モノフルオロカーボン構造を有する芳香族フルオロカーボン類およびその誘導体からなる群から選ばれた少なくとも1種である、請求項3に記載の水系スラリー。
【請求項5】前記フッ化化合物がフッ化ピッチである、請求項1または2に記載の水系スラリー。
【請求項6】界面活性剤を用いて前記撥水性材料が前記水系分散媒中に分散されている、請求項1、2、3、4または5に記載の水系スラリー。
【請求項7】前記フッ化ピッチに基づく撥水性が付与された前記撥水性材料の前記表面部分は、第1級アミノ基と第3級アミノ基とを同一分子内に有するジアミン化合物と反応して第4級アミンを形成している、請求項5に記載の水系スラリー。
【請求項8】前記ジアミン化合物が下記の一般式(1)で示されるものである、請求項7に記載の水系スラリー。
【化1】


(一般式(1)中、Rは炭化水素基を示し、nは任意の整数を示している。)
【請求項9】水系分散媒と、フッ化ピッチの粒子とを含み、前記フッ化ピッチの粒子は、表面部分が第1級アミノ基と第3級アミノ基とを同一分子内に有するジアミン化合物と反応して第4級アミンを形成し、これにより前記水系分散媒中に分散されている、水系スラリー。
【請求項10】水系分散媒と、フッ化ピッチに由来する繰返し単位を有する共重合体の粒子とを含み、前記共重合体の粒子は、表面部分が前記フッ化ピッチに由来する繰返し単位の部位において第1級アミノ基および第3級アミノ基を同一分子内に有するジアミン化合物と反応して第4級アミンを形成し、これにより前記水系分散媒中に分散されている、水系スラリー。
【請求項11】フッ化ピッチと、第1級アミノ基および第3級アミノ基を同一分子内に有するジアミン化合物とを反応させることにより調製された第4級アミン化合物。

詳細な説明

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明が属する技術分野】本発明は、スラリー、特に、水系スラリーに関する。
【0002】
【従来の技術とその課題】金属製や樹脂製などの各種基材に撥水性を付与する場合は、通常、基材に対して撥水仕上げ加工が施される。このような撥水仕上げ加工では、通常、ピリジニウム化合物、金属せっけん、ワックス、樹脂、シリコーンまたはフッ素化合物などを用いて基材を表面処理している。
【0003】ところが、上述のような表面処理により付与された撥水性は、基材の表面の劣化に従って低下し易く、長期間安定に維持されにくい。このため、基材を構成する材料に対して撥水剤を添加し、これによって基材そのものに撥水性を付与する試みもなされている。例えば、コンクリートの成型物に撥水性を付与する場合には、鉱物油などの油性の撥水剤、アスファルトエマルション,ワックスエマルション或いはステアリン酸の脂肪酸塩などの水系の撥水剤を予めセメントに対して添加している。しかし、これらの撥水剤は、油性の場合は比較的良好な撥水性を基材に対して付与することができるものの、水系の場合は基材に対して十分な撥水性を付与するのが困難な場合が多い。
【0004】本発明の目的は、良好な撥水性を付与可能な撥水剤として利用することができ、しかも水系の各種材料との馴染が良好なスラリーを実現することにある。
【0005】
【課題を解決するための手段】本発明に係る水系スラリーは、水系分散媒と、フッ化化合物に基づく撥水性が表面部分に付与された撥水性材料とを含んでいる。撥水性材料は、水系分散媒中に分散されている。
【0006】このような水系スラリーで用いられる撥水性材料は、例えば、コアと、コアの表面に配置されたフッ化化合物による撥水層とを有し、さらに、コアは、フッ化化合物と化学結合可能な官能基を表面に有している。ここで、フッ化化合物は、例えばモノフルオロカーボン構造および酸無水物構造のうちの少なくとも1つの化学構造を含んでいる。また、フッ化化合物は、例えば、モノフルオロカーボン構造を有する芳香族フルオロカーボン類およびその誘導体からなる群から選ばれた少なくとも1種である。さらに、フッ化化合物は、例えばフッ化ピッチである。
【0007】このような水系スラリーにおいて、撥水性材料は、例えば界面活性剤を用いて水系分散媒中に分散されている。
【0008】また、フッ化化合物がフッ化ピッチの場合、フッ化ピッチに基づく撥水性が付与された撥水性材料の表面部分は、例えば、第1級アミノ基と第3級アミノ基とを同一分子内に有するジアミン化合物と反応して第4級アミンを形成している。ここで、ジアミン化合物は、例えば下記の一般式(1)で示されるものである。
【0009】
【化2】


【0010】なお、一般式(1)中、Rは炭化水素基を示し、nは任意の整数を示している。
【0011】本発明に係る他の水系スラリーは、水系分散媒と、フッ化ピッチの粒子とを含んでいる。フッ化ピッチの粒子は、表面部分が第1級アミノ基と第3級アミノ基とを同一分子内に有するジアミン化合物と反応して第4級アミンを形成し、これにより水系分散媒中に分散されている。
【0012】本発明に係るさらに他の水系スラリーは、水系分散媒と、フッ化ピッチに由来する繰返し単位を有する共重合体の粒子とを含んでいる。共重合体の粒子は、表面部分がフッ化ピッチに由来する繰返し単位の部位において第1級アミノ基および第3級アミノ基を同一分子内に有するジアミン化合物と反応して第4級アミンを形成し、これにより水系分散媒中に分散されている。
【0013】本発明に係る第4級アミン化合物は、フッ化ピッチと、第1級アミノ基および第3級アミノ基を同一分子内に有するジアミン化合物とを反応させることにより調製されたものである。
【0014】
【発明の実施の形態】
水系分散媒本発明の水系スラリーに含まれる水系分散媒は、通常、水である。この水は、所望により、酸化マグネシウムなどの粘度調整剤やアルコール類などの親水性溶剤を含んでいてもよい。
【0015】撥水性材料上述の水系分散媒中に分散されている撥水性材料は、フッ化化合物による撥水性が表面部分に付与されたものである。このような撥水性材料としては、例えば、コアと、当該コアの表面に配置されたフッ化化合物による撥水層を有する粒子(態様1)、フッ化化合物そのものの粒子(態様2)、およびフッ化化合物に由来する繰返し単位を有する共重合体の粒子(態様3)の3態様を挙げることができる。以下、各撥水性材料について説明する。
【0016】(態様1の撥水性粒子)このような撥水性粒子の一例を図1に示す。図において、撥水性粒子1は、コア2と、その表面に配置された撥水層3とから主に構成されている。コア2は、樹脂や有機顔料などの有機材料、アルミニウムなどの金属,シリコーンカーバイドなどのセラミック,並びにタルク,シリカおよびムライトなどの鉱物などの無機材料からなるものであり、球状、円柱状、りん片状などの種々の形状に形成されたものである。なお、図1では、コア2が球状に示されているが、これは本発明を限定するものではない。また、図1では、撥水層3の厚さを強調している。
【0017】このようなコア2は、撥水層3を構成する、後述するフッ化化合物と化学結合反応可能な官能基をその表面に有しているのが好ましい。このような機能を発揮し得る官能基は、撥水層3に用いるフッ化化合物の種類により異なるが、例えば、アミノ基、水酸基、アルコラート基、フェノラート基、酸のアルカリ金属塩基、メルカプト基およびエポキシ基などである。コア2は、これらの官能基を2種類以上有していてもよい。
【0018】なお、上述の各種官能基のうち、アミノ基は、下記の式で示されるような第1級、第2級または第3級のアミノ基のうちのいずれのものであってもよい。また、ここでのアミノ基は、アミド基およびウレタン結合をも含む概念である。
【0019】
【化3】


【0020】また、酸のアルカリ金属塩基としては、カルボン酸やスルホン酸のナトリウム塩基やカリウム塩基を例示することができる。さらに、上述のエポキシ基は、グリシジル基をも含む概念である。
【0021】ここで、上述の官能基を有する有機材料のうち、アミノ基を有する有機材料としては、ポリアミン樹脂、ポリエチレンイミン樹脂、ポリ(トリメチレンイミン)樹脂、ポリアミド樹脂、ポリペプチド樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリ尿素樹脂、ポリイミド樹脂、ポリイミダゾール樹脂、ポリオキサゾール樹脂、ポリピロール樹脂、ポリアニリン樹脂、アラミド樹脂、ポリアクリルアミド樹脂などの窒素含有樹脂を例示することができる。水酸基を有する有機樹脂としては、フェノール樹脂やセルロースを例示することができる。アルコラート基を有する有機樹脂としては、イオン交換樹脂を例示することができる。フェノラート基を有する有機樹脂としては、アルカリ処理したフェノール樹脂を例示することができる。酸のアルカリ金属塩基を有する有機樹脂としては、イオン交換樹脂を例示することができる。メルカプト基を有する有機樹脂としては、チオコールを例示することができる。
【0022】また、上述の官能基を有する有機材料のうち、アミノ基を有する有機顔料としてはベンジジンオレンジGG、ベンザミンブリリアントスカーレットBB、ベンザミンレッド7B、ベンジジンイエローG、ベンザミンインジゴブルーBRLS、ベンザミンファストグリーンGFL、ベンザミンブラックOBS、ベンザミンブリリアントオレンジR4GS、ベンザミンブリリアントグリーン3GS、アリザリンブルーブラックB、アリザリンライトグレー2BLW、アリザリンライトブルーB、アリザリンライトブルーSE、アリザリンルビノールR、アリザリンサファイアAR、アリザリンサフィロールA、アリザリンシアニングリーンG、アリザリンスカイブルーB、アリザリンスカイブルーNA、アリザリンファストブルーGなどを例示することができる。また、水酸基を有する有機顔料としては、アリザリンシアニンR、アリザリンブルー、アリザリン、アリザリンエロー、アリザリンエローRなどを例示することができる。
【0023】なお、上記の官能基は、表面処理剤を用いてコア2の表面に付与されたものであってもよい。この場合、コア2としては、目的とする官能基を付与するための表面処理剤と化学結合可能な化学構造を表面に有するものが用いられる。ここで、表面処理剤と反応し得る化学構造としては、例えば、水酸基、カルボキシル基およびカルボニル基などの官能基、金属酸化物、並びにSiO2 などのケイ素酸化物を挙げることができる。このような化学構造を表面に有するコア2としては、例えば、シリカを材料として形成されたものが挙げられる。
【0024】コア2に目的とする官能基を付与するための表面処理剤は、コア2の表面に存在する上述の化学構造と反応し得る化学構造部位と、コア2に付与すべき官能基とを有するものである。当該表面処理剤は、このような条件を満たすものであれば特に限定されるものではないが、例えば、コア2に付与すべき官能基を有するシランカップリング剤、チタネート系カップリング剤および有機クロム系カップリング剤などを挙げることができる。
【0025】例えば、コア2に付与すべき官能基がアミノ基の場合は、表面処理剤としてγ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピル−トリメトキシシラン、n(ジメトキシメチルシリルプロピル)−エチレンジアミンなどのアミノ基を有するシランカップリング剤、イソプロピルトリ(N−アミドエチル・アミノエチル)チタネートなどのアミノ基を有するチタネート系カップリング剤、下記の構造式で示されるクロミッククロリド系化合物などのアミノ基を有する有機クロム系カップリング剤を用いることができる。
【0026】
【化4】


【0027】また、コア2に付与すべき官能基がエポキシ基の場合は、表面処理剤として、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシランなどを用いることができる。これらの表面処理剤は、2種以上のものが併用されてもよい。
【0028】上述の各種表面処理剤を用いてコア2の表面に所定の官能基を付与する場合は、コア2を表面処理剤を用いて処理する。表面処理剤を用いてコア2を処理する方法としては、表面処理剤中にコア2を浸漬する方法、或いはコア2に対して表面処理剤を塗布する方法などが採用され得る。表面処理剤を塗布する場合には、例えば、刷毛、各種ローラー、スプレー等を用いることができる。また、コア2を表面処理剤の存在下で湿式粉砕する方法を採用することもできる。
【0029】コア2を上述の表面処理剤により処理する際の処理温度は、表面処理剤の種類等により異なり、特に限定されるものではないが、通常、室温〜90℃に設定するのが好ましい。また、処理時間は、表面処理剤の種類や表面処理剤の処理方法により異なるが、例えば表面処理剤中にコア2を浸漬する場合は、浸漬時間を1〜24時間に設定するのが好ましい。
【0030】なお、上述の表面処理剤により処理されたコア2は、後述する撥水層3を形成するための工程へ移る前に、予め十分に乾燥させておくのが好ましい。コア2の乾燥条件は、コア2の種類や耐熱温度にもよるが、通常、60〜150℃で1〜24時間に設定するのが好ましい。このようなコア2の乾燥処理は、減圧下で実施されてもよい。
【0031】撥水層3は、フッ化化合物を用いて形成されたものであり、例えば、当該フッ化化合物中に含まれる所定の化学構造部位とコア2側の上述の化学官能基との結合反応により、コア2の表面に化学結合している。
【0032】上述のフッ化化合物は、その構造中にコア2側の上述の官能基と直接に化学反応可能な化学構造部位を有し、かつ撥水性粒子1に所要の撥水性を付与し得るものであれば、特に限定されない。ここで、コア2側の官能基と直接に化学反応可能な化学構造部位としては、例えば、モノフルオロカーボン構造やカルボン酸の酸無水物構造などを挙げることができる。フッ化化合物は、このような化学構造部位を2種以上有していてもよい。ここで、モノフルオロカーボン構造とは、炭素原子に対して1つのフッ素原子が結合している炭素−フッ素結合構造(以下、”CF”と略す)をいい、具体的には下記の構造式で示される構造をいう。なお、このようなモノフルオロカーボン構造には、酸フルオライド構造も含まれる。
【0033】
【化5】


【0034】本発明で用いられるフッ化化合物のうち、上述のモノフルオロカーボン構造を含むものは、当該モノフルオロカーボン構造の他に、撥水・撥油性に寄与し得る官能基として、炭素原子に対して2つのフッ素原子が結合している炭素−フッ素結合構造(以下、”CF2 ”と略す)、および炭素原子に対して3つのフッ素原子が結合している炭素−フッ素結合構造(以下、”CF3 ”と略す)のうちのいずれか、または両者が含まれていてもよい。この場合、フッ化化合物に含まれるこれら3種の炭素−フッ素結合構造の割合は、特に限定されるものではない。因に、CF2 およびCF3 の構造を式で示すと下記のようになる。
【0035】
【化6】


【0036】本発明で用いられるこのようなフッ化化合物のうち好ましいものとしては、モノフルオロカーボン構造部位および酸無水物構造部位のうちの少なくとも一つを有する芳香族フルオロカーボン類およびその誘導体、並びにフッ化ピッチを挙げることができる。このうち、モノフルオロカーボン構造を有する芳香族フルオロカーボン類としては、例えば、六フッ化ベンゼン(ヘキサフルオロベンゼン)、オクタフルオロナフタレン、デカフルオロアンスラセン、デカフルオロフェナンスレン、およびデカフルオロピレン並びに下記の一般式(a)および(b)で示されるものを挙げることができる。また、酸無水物構造部位を有する芳香族フルオロカーボン類としては、例えば、下記の構造式(c)および(d)で示されるものを挙げることができる。
【0037】
【化7】


【0038】一方、フッ化ピッチは、ピッチをフッ素ガスを用いてフッ素化することにより製造できる公知の物質であり、例えば、特開昭62−275190号公報に開示されている。なお、フッ化ピッチは、上述のモノフルオロカーボン構造を有し、また、カルボン酸の酸無水物構造を有する場合がある。
【0039】このようなフッ化ピッチを製造するために用いられるピッチは、一般に芳香族縮合六員環平面がメチレンなどの脂肪族炭化水素基により架橋しながら積層した層構造を有するものであり、通常、石油蒸留残渣、ナフサ熱分解残渣、エチレンボトム油、石炭液化油およびコールタールなどの石油系または石炭系重質油を蒸留して沸点が200℃未満の低沸点成分を除去したもの、ナフタレン等の縮合によって合成されたもの、およびこれらをさらに熱処理や水添処理したものである。具体的には、等方性ピッチ、メソフェースピッチ、水素化メソフェースピッチ、石油系または石炭系重質油を蒸留して低沸点成分を除去した後に生成するメソフェース球体からなるメソカーボンマイクロビーズなどを挙げることができる。
【0040】上述のピッチを用いて目的とするフッ化ピッチを製造する際には、ピッチとフッ素ガスとを直接反応させる。この反応時の温度は、0〜350℃程度に設定するのが好ましく、ピッチの軟化点以下に設定するのがより好ましい。また、反応時のフッ素ガス圧は、特に限定されるものではないが、一般に0.07〜1.5気圧に設定するのが好ましい。なお、フッ素ガスとしては、窒素、ヘリウム、アルゴン、ネオンなどの不活性ガスを用いて希釈したものが用いられてもよい。
【0041】本発明で利用可能なフッ化ピッチとして好ましいものは、実質的に炭素原子とフッ素原子とからなり、フッ素と炭素との原子比(フッ素/炭素)が、例えば0.5〜1.8程度のものである。このようなフッ化ピッチは、次の(a)、(b)、(c)および(d)の特性を示す。
【0042】(a)粉末X線回折において、2θ=13゜付近に最大強度のピークを示し、2θ=40゜付近に最大強度ピークよりも強度の小さなピークを示す。
【0043】(b)X線光電子分光分析において、290.0±1.0eVにCFに相当するピークおよび292.5±0.9eV付近にCF2 に相当するピークを示し、CFに相当するピークに対するCF2 に相当するピークの強さの比が0.15〜1.5程度である。
【0044】(c)真空蒸留により膜を形成することができる。
(d)30℃における水に対する接触角が141°±8°である。
【0045】また、本発明では、透明樹脂状のフッ化ピッチを使用することもできる。透明樹脂状のフッ化ピッチは、例えば、フッ化ピッチをフッ素ガス雰囲気下において0.1〜3℃/分程度、好ましくは0.5〜1.5℃/分程度の昇温速度で250〜400℃程度まで昇温し、所定時間、例えば1〜18時間程度、好ましくは6〜12時間程度反応させることにより製造することができる。この方法によれば、例えば次のような特性を示す透明樹脂状のフッ化ピッチを得ることができる。
【0046】F/C原子比:1.5〜1.7光透過率(250〜900nm):90%分子量:1,500〜2,000軟化点:150〜250℃【0047】なお、上述のフッ化ピッチを製造するための材料となるピッチとして、予めメカノケミカル的に又は化学的に強制的に酸化されたピッチ(オゾン酸化ピッチ)を用いると、上述のモノフルオロカーボン構造のうちの酸フルオライド構造を多く含むフッ化ピッチが得られる。
【0048】なお、より撥水性の高い撥水層3を形成する必要がある場合には、上述のフッ化化合物としてフッ化ピッチを用いるのが好ましい。また、上述の各種フッ化化合物は、2種以上のものが併用されてもよい。例えば、六フッ化ベンゼンにフッ化ピッチを溶解したものや2種以上のフッ化ピッチの混合物を用いることができる。
【0049】上述のフッ化化合物による撥水層3をコア2の表面に形成する場合は、上述のフッ化化合物を液状に調製し、これをコア2に塗布する。具体的には、上述のフッ化化合物が液状である場合(例えば、六フッ化ベンゼンの場合)はそのままの状態でコア2に塗布することができ、また、液状または固体状である場合は溶媒に溶解した状態でコア2に塗布することができる。なお、液状のフッ化化合物の場合であっても、溶媒に溶解して使用することが可能である。塗布方法としては、例えば、コア2に対して液状のフッ化化合物を吹き付ける方法やコア2を液状のフッ化化合物中に浸漬する方法などを採用することができる。
【0050】フッ化化合物を溶解するための溶媒としては、当該フッ化化合物を溶解し得るものであれば特に限定されないが、通常はフッ素系の溶媒が好ましく用いられる。ここで、フッ素系の溶媒としては、例えば、パーフルオロデカヒドロフェナンスレン、パーフルオロデカリン、パーフルオロ−1−メチルデカリン、パーフルオロジメチルナフタレン、パーフルオロ−1,3−ジメチルシクロヘキサン、2,5−ジクロロベンゾトリフロライド、クロロペンタフルオロベンゼン、1,1,2−トリクロロ−1,2,2−トリフルオロエタン(例えば、旭硝子株式会社製の商品名”フロンソルブ”)、ヘキサフルオロベンゼン、1.3−ジトリフルオロメチルベンゼン、2,2,2−トリフルオロエタノール、トリフルオロメチルベンゼン、住友スリーエム株式会社製の商品名”PF5052”、パーフルオロ−2−ノルマルブチルフラン系溶媒(例えば、住友スリーエム株式会社製の商品名”フロリナートFC75”)、トリスパーフルオロn−ブチルアミン系溶媒(例えば、住友スリーエム株式会社製の商品名”フロリナートFC43”)、同じくトリスパーフルオロアルキルアミン系溶媒(例えば、住友スリーエム株式会社製の商品名”フロリナートFC3283”、同”フロリナートFC40”および同”フロリナートFC70”)、日本モンテジソン株式会社製のガルデンDO2(商品名)並びにクロロフルオロカーボン(例えば、旭硝子株式会社製の商品名”フロン113”)などを挙げることができる。このようなフッ素系の溶媒のうち特に好ましいものは、上述のフッ化化合物を溶解し易い点でクロロペンタフルオロベンゼン、ヘキサフルオロベンゼンおよびトリスパーフルオロアルキルアミン系溶媒である。
【0051】フッ化化合物を溶媒に溶解して用いる場合は、通常、フッ化化合物の濃度が0.01〜50重量%になるよう設定するのが好ましく、0.1〜20重量%になるよう設定するのがより好ましい。当該濃度が0.01重量%未満の場合は、例えば後述するような浸漬によりコア2に対して撥水層3を形成する場合に浸漬時間を長く設定する必要があり、また、コア2に対して所要の撥水層3を形成しにくい場合がある。逆に、50重量%を超える場合は、フッ化化合物溶液の液粘度が高くなり過ぎて取り扱いが困難になるおそれがあり、また、溶媒中に不溶のフッ化化合物が残存し、コア2に対して均一な撥水層3を形成しにくい場合がある。
【0052】このように、この態様に係る上述の撥水性粒子1は、コア2に対して液状のフッ化化合物を塗布するだけで容易に製造することができる。
【0053】撥水性粒子1の粒径(平均粒径)は、本発明の水系スラリーの利用方法・形態に従って適宜設定することができ、特に限定されるものではないが、通常、0.1〜30μmに設定するのが好ましく、0.2〜10μmに設定するのがより好ましい。粒径が0.1μm未満の場合は、工業的に生産が困難な場合がある。逆に、30μmを超える場合は、上述の水系分散媒中に分散させる際に沈降しやすい。なお、撥水性粒子1は、本発明の水系スラリー中での均一な分散性を確保するために、粒径が50μm以上の粗大粒子を含まないように分級されたものを用いるのが好ましい。
【0054】このような本態様の撥水性粒子1において、撥水層3がフッ化ピッチを用いて形成されている場合、当該撥水層3を構成するフッ化ピッチは、第1級アミノ基と第3級アミノ基とを同一分子内に有するジアミン化合物により少なくとも一部分が第4級アミンを形成していてもよい。ここで用いられるジアミン化合物としては、例えば下記の一般式(1)で示されるものが挙げられる。
【0055】
【化8】


【0056】なお、一般式(1)中のRは炭化水素基を示している。この炭化水素基の具体例としては、n−プロピレン基などの脂肪族炭化水素基、シクロヘキシル基などの脂環式炭化水素基、フェニレン基などの芳香族炭化水素基を挙げることができる。一方、一般式(1)中のnは任意の整数を示している。好ましいnの範囲は、通常、1〜5である。nが5を超えると、ジアミン化合物の分子量が大きくなり、上述の水系分散媒中における撥水性粒子1の分散性が低下するおそれがある。
【0057】上述のジアミン化合物を用いて撥水層3を構成するフッ化ピッチを第4級アミン化するためには、撥水性粒子1と上述のジアミン化合物とを反応させる。これにより、下記の反応式に示す反応が進行し、撥水層3を構成するフッ化ピッチが第4級アミン化され、第4級アミン化合物が生成する。なお、この反応は、通常、フッ化ピッチを溶解したアルコール溶液とジアミン化合物を溶解したアルコール溶液とを別個に調製し、両アルコール溶液を混合して撹拌することにより進行させることができる。
【0058】
【化9】


【0059】ここで、上述のジアミン化合物の使用量は、通常、撥水性粒子1の100重量部に対して0.5〜30重量部に設定するのが好ましく、1〜10重量部に設定するのがより好ましい。ジアミン化合物の使用量が0.5重量部未満の場合は、撥水性粒子1の分散性が不十分な場合がある。逆に、30重量部を超えると、後に撥水性粒子1からジアミン化合物を除去するのが困難な場合がある。
【0060】なお、フッ化ピッチは、コア2上に適用された後に第4級アミン化されてもよいし、コア2に対して適用される前に第4級アミン化されてもよい。
【0061】(態様2の撥水性粒子)この撥水性粒子を構成するフッ化化合物は、上述の態様1に係る撥水性粒子1の撥水層3を構成する上述のフッ化化合物と同様のものからなる。特に、良好な撥水性を発現し得る点で、フッ化ピッチからなる粒子が好ましい。このような撥水性粒子は、全体が上述のフッ化化合物からなるので、それに基づく撥水性が表面部分に付与されている。
【0062】この態様の撥水性粒子の形状は、特に限定されるものではなく、例えば、球状、円柱状、りん片状などの種々の形状である。また、撥水性粒子の粒径(平均粒径)は、本発明の水系スラリーの利用方法・形態に従って適宜設定することができ、特に限定されるものではないが、通常、0.2〜20μmに設定するのが好ましく、0.4〜10μmに設定するのがより好ましい。粒径が0.2μm未満の場合は、工業的に生産するのが困難な場合がある。逆に、20μmを超える場合は、水系分散媒中で沈降するおそれがある。なお、この態様の撥水性粒子は、本発明の水系スラリー中での均一な分散性を確保するために、粒径が50μm以上の粗大粒子を含まないように分級されたものを用いるのが好ましい。
【0063】この態様の撥水性粒子がフッ化ピッチからなる場合、この撥水性粒子は、表面部分が上述の態様1の撥水性粒子の場合と同様にジアミン化合物を用いて第4級アミン化されていてもよい。この場合、第4級アミン化の方法やジアミン化合物の使用量等は、上述の態様1の場合と同様である。
【0064】(態様3の撥水性粒子)この撥水性粒子は、フッ化化合物に由来する繰返し単位を有する共重合体の粒子である。ここで、フッ化化合物に由来する繰返し単位を有する共重合体は、重合性モノマーの重合体からなるものであり、その一部に重合性二重結合を有するフッ化化合物、特に上述のフッ化ピッチに由来するユニットを有している。
【0065】ここで、重合性モノマーとしては、ラジカル重合が可能なものであれば特に限定されるものではなく公知の種々のものが用いられ得るが、フッ化ピッチを膨潤させることができるものが好ましい。このような重合性モノマーとしては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸誘導体、メタクリル酸誘導体などのアクリル系またはメタクリル系のモノマーを挙げることができる。
【0066】アクリル酸誘導体およびメタクリル酸誘導体の具体例としては、アクリル酸エステル(例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n−プロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸t−ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸n−オクチル、アクリル酸ラウリル、アクリル酸ベンジル、アクリル酸ヒドロキシエチル、アクリル酸ヒドロキシプロピル、アクリル酸ヒドロキシブチルなど)、メタクリル酸エステル(例えば、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸n−プロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸t−ブチル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸n−オクチル、メタクリル酸ラウリル、メタクリル酸ステアリル、メタクリル酸トリデシル、メタクリル酸ベンジル、メタクリル酸ヒドロキシメチル、メタクリル酸ヒドロキシエチル、メタクリル酸ヒドロキシプロピル、メタクリル酸ヒドロキシブチルなど)、アリルアルコール、アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどを挙げることができる。
【0067】上述のアクリル系またはメタクリル系のモノマーは、2種以上のものが混合して用いられてもよい。なお、このようなアクリル系またはメタクリル系のモノマーを用いる場合、他の重合性モノマー、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、p−tert−ブチルスチレン、イタコン酸ジメチルなどのイタコン酸エステル、マレイン酸ジメチルなどのマレイン酸エステル、フマール酸ジメチルなどのフマール酸エステル、酢酸ビニルなどが併用されてもよい。
【0068】一方、共重合体の一部に含まれる、フッ化ピッチに由来するユニットは、フッ化ピッチが上述の重合性モノマーと共重合することにより形成されるユニットである。なお、共重合体に含まれる、フッ化ピッチに由来するユニットは、2種以上のフッ化ピッチに由来する複数種類のものであってもよい。
【0069】上述のフッ化ピッチ含有重合体は、上述の重合性モノマーとフッ化ピッチとをラジカル重合させることにより製造することができる。ここでは、先ず、重合性モノマーにフッ化ピッチを膨潤させ、これにラジカル重合開始剤を添加する。ラジカル重合開始剤としては、アゾビスイソブチロニトリルやベンゾイルパーオキサイド等の一般的なアゾ系または過酸化物系の開始剤の他、チオ硫酸ナトリウムや塩化鉄などの還元剤と過硫酸ナトリウムのようなラジカル発生剤とを用いて調製されるレドックス系ラジカル開始剤を用いることもできる。
【0070】上述のラジカル重合は、溶媒中で実施されてもよいし、溶媒を用いずに実施されてもよい。溶媒を用いてラジカル重合を実施した場合は、反応生成物の粘度を低下させることができる。溶媒を用いる場合、溶媒の種類は目的とするフッ化ピッチ含有重合体を溶解することができるものであれば特に限定されるものではないが、通常、アセトン、トルエン、キシレン、メチルエチルケトン、クロロホルム、テトラヒドロフランなどが用いられる。
【0071】ラジカル重合を実施する際において、重合性モノマーとフッ化ピッチとの割合は、重合性モノマーに対してフッ化ピッチの重量割合を0.1〜10倍に設定するのが好ましく、0.2〜2倍に設定するのがより好ましい。フッ化ピッチの重量割合が0.1倍未満の場合は、生成するフッ化ピッチ含有重合体中においてフッ化ピッチに由来するユニットの割合が小さくなるので、当該フッ化ピッチ含有重合体による粒子の表面の撥水性が低下するおそれがある。逆に、フッ化ピッチの重量割合が10倍を超える場合は、当該フッ化ピッチ含有重合体による粒子の機械的強度が低下し、当該粒子が脆くなるおそれがある。
【0072】また、ラジカル重合時に使用するラジカル開始剤の量は、重合性モノマーの重量に対して0.1〜10%に設定するのが好ましく、0.5〜5%に設定するのがより好ましい。この使用量が0.1%未満の場合は、重合が不十分になり、大量の未反応モノマーが残存する場合がある。逆に、10%を超える場合は、得られる重合体の分子量が小さくなり、機械的強度などの物性が低下するおそれがある。
【0073】なお、溶媒中でラジカル重合を実施する場合、溶媒の使用量は、重合性モノマーとフッ化ピッチとの総重量の濃度が5〜80%になるように設定するのが好ましく、10〜60%になるように設定するのがより好ましい。溶媒の使用量が5%未満の場合は、反応系の粘度が高くなり、操作性が低下するおそれがある。逆に、80%を超えると、溶媒の使用量が過剰になり、不経済である。
【0074】反応温度は、使用するラジカル開始剤の種類により異なるが、過酸化物系またはアゾ系の開始剤を用いる場合は、通常、室温〜120℃程度、好ましくは40〜80℃に設定される。一方、レドックス系の開始剤を用いる場合は、通常、−20〜60℃程度、好ましくは室温〜40℃に設定される。
【0075】反応時間は、特に限定されるものではないが、目的とするフッ化ピッチ含有重合体の分子量に応じて適宜設定することができる。因に、反応時間を長く設定すると得られるフッ化ピッチ重合体の分子量は大きくなる。但し、一般的な反応時間は、0.5〜24時間に設定され、好ましくは1〜10時間に設定される。
【0076】上述のようなラジカル重合で得られるフッ化ピッチ含有重合体は、基本的には重合性モノマーの重合により得られる重合体であり、その一部にフッ化ピッチに由来するユニットを含んでいる。例えば、重合性モノマーとしてアクリル系モノマーまたはメタクリル系モノマーを用いた場合、フッ化ピッチ含有重合体は、アクリル系重合体またはメタクリル系重合体の一部にフッ化ピッチに由来するユニットを含むものとして得られる。
【0077】この態様に係る撥水性粒子は、上述のフッ化ピッチ含有重合体の2種以上からなる混合物であってもよい。
【0078】なお、この態様の撥水性粒子の形状は、特に限定されるものではなく、例えば、球状、円柱状、りん片状などの種々の形状である。また、撥水性粒子の粒径(平均粒径)は、本発明の水系スラリーの利用方法・形態に従って適宜設定することができ、特に限定されるものではないが、通常、0.1〜30μmに設定するのが好ましく、0.2〜10μmに設定するのがより好ましい。粒径が0.1μm未満の場合は、工業的に生産するのが困難な場合がある。逆に、30μmを超える場合は、水系分散媒中で沈降するおそれがある。なお、この態様の撥水性粒子は、本発明の水系スラリー中での均一な分散性を確保するために、粒径が50μm以上の粗大粒子を含まないように分級されたものを用いるのが好ましい。
【0079】この態様の撥水性粒子の表面部分は、フッ化ピッチに由来する繰返し単位の部位が上述の態様1の撥水性粒子の場合と同様にジアミン化合物を用いて第4級アミン化されていてもよい。この場合、第4級アミン化の方法やジアミン化合物の使用量等は、上述の態様1の場合と同様である。
【0080】水系スラリーの調製方法本発明の水系スラリーは、上述の水系分散液中に上述の撥水性材料を添加して分散させることにより製造することができる。この際、上述の撥水性材料の表面部分が上述のような第4級アミンを形成している場合を除き、通常、界面活性剤が用いられる。界面活性剤を用いると、撥水性粒子を水系分散媒中に均一に分散させかつ当該撥水性粒子の表面が完全に濡れた状態になるよう設定することができる。利用可能な界面活性剤は、特に限定されるものではないが、通常、水溶性のカチオン系界面活性剤、水溶性の非イオン系界面活性剤および水溶性の両性界面活性剤である。
【0081】ここで、水溶性のカチオン系界面活性剤としては、例えば、第4級アンモニウム塩、第2級アミン塩および第3級アミン塩を用いることができる。また、水溶性の非イオン系界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレン系、ポリエチレンイミン系およびエステル系のものを用いることができる。さらに、水溶性の両性界面活性剤としては、例えば、カルボン酸系やスルホン酸系のものを用いることができる。なお、これらの界面活性剤としては、分子中に炭素−フッ素結合を有するフッ素系界面活性剤を用いるのが特に好ましい。
【0082】上述の界面活性剤の添加量は、通常、撥水性材料1gに対して5〜300mgに設定するのが好ましく、10〜100mgに設定するのがより好ましい。この添加量が5mg未満の場合は、撥水性材料が水系分散媒中に均一に分散しにくくなる。逆に、300mgを超えると、後に界面活性剤を除去するのが困難になる。
【0083】一方、上述の撥水性材料の表面部分が上述のような第4級アミンを形成している場合は、第4級アミン部分が界面活性剤として機能するため、当該撥水性材料を水系分散媒中に添加して分散させると、他の界面活性剤を用いなくても本発明の水系スラリーが得られる。
【0084】水系スラリーの利用方法本発明の水系スラリーは、水系の材料を用いて形成される各種の基材、例えば、水系塗料を用いて形成される塗膜やセメントを用いて形成されるコンクリート成型体に撥水性を付与するために用いられる。即ち、本発明の水系スラリーは、水系の各種成形材料等に添加すると、当該成形材料からなる成形物に撥水性を付与することができる。
【0085】例えば、塗膜に撥水性を付与する場合は、塗膜を形成するための水系塗料に本発明の水系スラリーを添加して十分に混合する。このようにすると、水系スラリーに含まれる撥水性材料が水系塗料により形成される塗膜中に均等に分散し、当該塗膜は撥水性材料により撥水性が付与される。また、コンクリート成型体に撥水性を付与する必要がある場合は、例えばセメント組成物に本発明の水系スラリーを添加して混練し、これを所望の形状に成型する。この場合は、水系スラリーに含まれる撥水性材料がコンクリート成型体中に均等に分散し、当該コンクリート成型体は撥水性材料により撥水性が付与される。
【0086】また、本発明の水系スラリーは、複合メッキ被膜を形成するための複合メッキ液用の材料として用いることもできる。なお、ここで云う複合メッキ被膜は、金属母材層の中に撥水性材料が分散状態で存在するメッキ被膜を云い、撥水性材料に基づく撥水性を示すものである。この場合、本発明の水系スラリーをベースとし、これに金属母材層を構成する金属の塩(例えば、ニッケル、銅、亜鉛、スズ、鉄、鉛、カドミウム、クロム、金や銀などの貴金属類、およびこれらの合金などの塩)を所定の濃度になるように添加すると、目的とする複合メッキ液が得られる。このような複合メッキ液を用いて基材に複合メッキ被膜を形成する場合は、基材を複合メッキ液中に浸漬し、通常のメッキ手法を適用する。
【0087】なお、本発明の水系スラリーを用いて形成された上述の塗膜、コンクリート成型体および複合メッキ被膜などは、形成後に加熱処理するのが好ましい。このような加熱処理により、界面活性剤が除去(熱分解、蒸発、昇華など)され、結果的にこれらの撥水性をより高めることができる。特に、水系スラリーに含まれる撥水性材料の表面部分が上述のように第4級アミン化されている場合は、加熱により当該第4級アミンが速やかに分解し、当該第4級アミン部分は元のフッ化ピッチに再生され、同時にジアミン化合物が塗膜等の成型体から除去される。
【0088】
【実施例】
実施例1〜4フッ化ピッチ微粉末(粒径=0.2μm)30.09gをメチルアルコール200mlに分散させた分散液と、N,N−ジメチル−1,3−プロパンジアミン(上述の一般式(1)で示されるジアミン化合物)10.66gをメチルアルコール60mlに溶解した溶液とをゆっくり混合・撹拌し、5分後に反応生成物を得た。この反応生成物中からアルコール分を除去し、反応生成物を乾燥した。
【0089】乾燥後の反応生成物を表1に示す割合で水中に加え、これを撹拌して水性スラリーを調製した。得られた水性スラリー中に、スルファミン酸ニッケルを360g/l、塩化ニッケルを45g/lおよびホウ酸を30g/lになるよう添加し、ニッケルメッキ液を調製した。
【0090】次に、得られたニッケルメッキ液中に0.5mm×3cm×5cmのニッケル板および銅板を浸漬し、ニッケル板を正極に、また銅板を負極にそれぞれ設定した。この状態で、液温を48±5℃、pHを4.2および電流密度を表1に示すように設定し、ニッケルメッキ液をスクリュー撹拌しながら1,000クーロンの電気量で電解メッキを実施した。この結果、銅板の表面には、ニッケルを母材とし、当該母材中にフッ化ピッチ微粒子が分散された複合メッキ被膜が形成された。その後、この複合メッキ被膜を250℃で1時間加熱し、上述のジアミン化合物を分解除去した。この複合メッキ被膜について、形成直後および真空乾燥後の撥水性を水の接触角に基づいて調べた。結果を表1に示す。なお、接触角は、接触角計(協和界面科学株式会社製の商品名”CA−A型”)を用いて測定した。
【0091】
【表1】


【0092】実施例5シランカップリング剤(信越シリーコン株式会社製の商品名”KBM603”)7.0gをエタノール200mlに溶解し、これにSiO2 微粒子(d50=0.2μm)200gを1時間浸漬した。その後、SiO2 微粒子を濾過し、130℃で乾燥した。
【0093】次に、40gのフッ化ピッチ(300℃で12時間熱処理したもの)を六フッ化ベンゼンに完全に溶解させ、これにシランカップリング剤により処理された上述のSiO2 微粒子を浸漬した。その後、SiO2 微粒子を濾過し、100℃で乾燥した。
【0094】乾燥後のSiO2 微粒子を50g/lの割合で水中に加え、これを撹拌して水性スラリーを調製した。得られた水性スラリー中に、スルファミン酸ニッケルを360g/l、塩化ニッケルを45g/lおよびホウ酸を30g/lになるよう添加し、ニッケルメッキ液を調製した。
【0095】次に、得られたニッケルメッキ液中に0.5mm×5cm×5cmのニッケル板および鏡面を有するステンレス板又はサンドブラスト処理(#80)されたステンレス板を浸漬し、ニッケル板を正極に、またステンレス板を負極にそれぞれ設定した。この状態で、液温を48±5℃、pHを4.2および電流密度を表2に示すように設定し、ニッケルメッキ液をスクリュー撹拌しながら1,000クーロンの電気量で電解メッキを実施した。この結果、ステンレス板の表面には、ニッケルを母材とし、当該母材中にSiO2 微粒子が分散された複合メッキ被膜が形成された。この複合メッキ被膜について、形成直後および250℃で1時間熱処理した後の撥水性を水の接触角に基づいてを調べた。結果を表2に示す。なお、接触角は、接触角計(協和界面科学株式会社製の商品名”CA−A型”)を用い、キムワイプ(十条キンバリー株式会社製の商品名)を用いて表面を50回拭き取る前(接触角I)と拭き取った後(接触角II)とについて測定した。
【0096】
【表2】


【0097】実施例6フッ化ピッチ(300℃で12時間熱処理したもの)40gを六フッ化ベンゼンに完全に溶解させ、これにフロン系溶媒(旭硝子株式会社製の商品名”AK225”)を追加して200mlの溶液を調製した。この溶液に、110℃で2時間真空乾燥したポリアミド微粒子(東レ株式会社製の商品名”ナイロン粒子2070”)を1時間浸漬した。その後、溶液を減圧吸引し、ポリアミド微粒子を乾燥した。
【0098】フッ化ピッチにより処理されたSiO2 微粒子に代えてこのポリアミド微粒子を用い、他は実施例5の場合と同様にして水性スラリーおよびニッケルメッキ液を調製した。得られたニッケルメッキ液を用いて実施例5の場合と同様の複合メッキ被膜を形成し、その撥水性を接触角に基づいて調べた。結果を表3に示す。
【0099】
【表3】


【0100】
【発明の効果】本発明に係る水系スラリーは、上述のようなフッ化化合物に基づく撥水性が表面部分に付与された撥水性材料を含んでいるので、良好な撥水性を付与可能な撥水剤として利用することができ、しかも水系の各種材料との馴染が良好である。
【0101】また、本発明に係る第4級アミン化合物は、フッ化ピッチと、第1級アミノ基および第3級アミノ基を同一分子内に有するジアミン化合物とを反応させることにより調製されたものであるため、水系分散媒中に安定に分散することができ、また、加熱すると容易に分解してフッ化ピッチを再生し得る。

 
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