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佐藤富徳が発明した特許出願リスト
 

◆油入変圧器の劣化診断システムおよび寿命予測システム

(書誌+要約+請求の範囲)

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開平7−94334
(43)【公開日】平成7年(1995)4月7日
(54)【発明の名称】油入変圧器の劣化診断システムおよび寿命予測システム
(51)【国際特許分類第6版】
H01F 27/00 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】FD
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願平5−259115
(22)【出願日】平成5年(1993)9月21日
(71)【出願人】
【識別番号】000000284
【氏名又は名称】大阪瓦斯株式会社
【住所又は居所】大阪府大阪市中央区平野町四丁目1番2号
(72)【発明者】
【氏名】早水 栄治
【住所又は居所】大阪市中央区平野町四丁目1番2号 大阪瓦斯株式会社内
(72)【発明者】
【氏名】松本 貢一
【住所又は居所】大阪市中央区平野町四丁目1番2号 大阪瓦斯株式会社内
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 富徳
【住所又は居所】大阪市中央区平野町四丁目1番2号 大阪瓦斯株式会社内
(74)【代理人】
【弁理士】
【氏名又は名称】小笠原 史朗



(57)【要約】
【目的】 油入変圧器の現在の劣化状態を簡易かつ安価に診断でき、かつ油入変圧器の将来の寿命到達時期を簡易かつ安価に予測し得るシステムを提供することである。
【構成】 ガス量分析計2は、各油入変圧器11〜1nから定期的にまたは不定期的にサンプリングされた絶縁油中に含有されている所定のガス成分の体積量を計測する。データ処理装置3は、計測された溶存ガス量の過去の測定データに基づいて、正常運転時の溶存ガス量の変動範囲を確率的に推定し、現在の溶存ガス量の測定結果と推定された変動範囲とを比較することにより、油入変圧器が正常に運転しているか否かを判定する。そして、油入変圧器が正常に運転していると判定されたときに、現在の溶存ガス量の測定結果に基づいて、油入変圧器中の絶縁紙の平均重合度残率を演算する。また、溶存ガス量の現在までの経時変化に基づいて、溶存ガス量が予め定められたしきい値に到達する時期(寿命到達時期)を予測演算する。



【特許請求の範囲】
【請求項1】 時系列的に測定された絶縁油中の溶存ガス量に基づいて、油入変圧器の劣化状態を診断するシステムであって、前記油入変圧器が正常に運転していると仮定した場合に、現在の溶存ガス量がとり得る変動範囲を溶存ガス量の過去の測定データから確率的に推定する変動範囲推定手段、現在の溶存ガス量の測定結果と前記推定された変動範囲とを比較することにより、前記油入変圧器が正常に運転しているか否かを判定する判定手段、および前記判定手段によって前記油入変圧器の正常運転が判定されたときに、現在の溶存ガス量の測定結果に基づいて、油入変圧器中の絶縁紙の平均重合度残率を演算する平均重合度残率演算手段を備える、油入変圧器の劣化診断システム。
【請求項2】 前記判定手段は、現在の溶存ガス量の測定結果が前記変動範囲推定手段によって推定された変動範囲内に入っているときは、前記油入変圧器が正常に運転していると判定し、現在の溶存ガス量の測定結果が前記変動範囲推定手段によって推定された変動範囲の上側にはみ出ているときは、前記油入変圧器が故障しているかまたは当該測定結果に許容限度以上の誤差が生じていると判定し、現在の溶存ガス量の測定結果が前記変動範囲推定手段によって推定された変動範囲の下側にはみ出ているときは、当該測定結果に許容限度以上の誤差が生じていると判定する、請求項1に記載の絶縁紙の劣化診断システム。
【請求項3】 絶縁油中に溶存するCOガスとCO2 ガスとの量に基づいて、前記油入変圧器の劣化状態を診断することを特徴とする、請求項1または2に記載の油入変圧器の劣化診断システム。
【請求項4】 時系列的に測定された絶縁油中の溶存ガス量に基づいて、油入変圧器の寿命を予測するシステムであって、前記油入変圧器が正常に運転していると仮定した場合に、現在の溶存ガス量がとり得る変動範囲を溶存ガス量の過去の測定データから確率的に推定する変動範囲推定手段、現在の溶存ガス量の測定結果と前記推定された変動範囲とを比較することにより、前記油入変圧器が正常に運転しているか否かを判定する判定手段、および前記判定手段によって前記油入変圧器の正常運転が判定されたときに、溶存ガス量の現在までの経時変化に基づいて、溶存ガス量が予め定められたしきい値に到達する時期を寿命到達時期として予測演算する予測演算手段を備える、油入変圧器の寿命予測システム。
【請求項5】 絶縁油中に溶存するCOガスとCO2 ガスとの量に基づいて、油入変圧器の寿命を予測することを特徴とする、請求項4に記載の油入変圧器の寿命予測システム。

詳細な説明

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】この発明は、絶縁油中に溶存する所定のガスの量に基づいて、油入変圧器の劣化状態を診断し、および将来の寿命を予測するシステムに関する。
【0002】
【従来の技術】油入変圧器は、絶縁油(鉱油,合成油等)を満たした外箱の中に本体(鉄心,巻線等の構造物)を入れたもので、乾式変圧器に比べて冷却効果が高いため、大容量変圧器のほとんどにおいて採用されている。ところで、このような油入変圧器の寿命は、巻線に巻回された絶縁紙(クラフト紙)の劣化具合によって大きく左右されることが広く知られている。すなわち、この絶縁紙の機械的強度が所定値以下に低下したときに、油入変圧器の寿命が尽きることが多い。
【0003】一般に、絶縁紙の機械的強度は抗張力や平均重合度残率によって求めることができるが、従来は、油入変圧器から実際に絶縁紙を採取して、その抗張力や平均重合度残率を測定する方法をとっていた。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、絶縁紙を採取するためには、油入変圧器の運転を一時的に停止しなければならず、停電を余儀なくされるという問題点があった。また、絶縁紙を採取するためには、油入変圧器の内部構造物をクレーン等で吊り上げなければならず、作業が面倒であり、かつ作業コストが高くつくという問題点があった。さらに、絶縁紙を採取した部分を後で補修しなければならないという問題点もあった。
【0005】それゆえに、この発明の目的は、油入変圧器の現在の劣化状態を簡易かつ安価に診断し得るシステムを提供することである。
【0006】この発明の他の目的は、油入変圧器の将来の寿命到達時期を簡易かつ安価に予測し得るシステムを提供することである。
【0007】
【課題を解決するための手段】請求項1に係る発明は、時系列的に測定された絶縁油中の溶存ガス量に基づいて、油入変圧器の劣化状態を診断するシステムであって、油入変圧器が正常に運転していると仮定した場合に、現在の溶存ガス量がとり得る変動範囲を溶存ガス量の過去の測定データから確率的に推定する変動範囲推定手段、現在の溶存ガス量の測定結果と推定された変動範囲とを比較することにより、油入変圧器が正常に運転しているか否かを判定する判定手段、および判定手段によって油入変圧器の正常運転が判定されたときに、現在の溶存ガス量の測定結果に基づいて、油入変圧器中の絶縁紙の平均重合度残率を演算する平均重合度残率演算手段を備えている。
【0008】請求項2に係る発明は、請求項1の発明において、判定手段は、現在の溶存ガス量の測定結果が変動範囲推定手段によって推定された変動範囲内に入っているときは、油入変圧器が正常に運転していると判定し、現在の溶存ガス量の測定結果が変動範囲推定手段によって推定された変動範囲の上側にはみ出ているときは、油入変圧器が故障しているかまたは当該測定結果に許容限度以上の誤差が生じていると判定し、現在の溶存ガス量の測定結果が変動範囲推定手段によって推定された変動範囲の下側にはみ出ているときは、当該測定結果に許容限度以上の誤差が生じていると判定することを特徴とする。
【0009】請求項3に係る発明は、請求項1または2の発明において、絶縁油中に溶存するCOガスとCO2 ガスとの量に基づいて、油入変圧器の劣化状態を診断することを特徴とする。
【0010】請求項4に係る発明は、時系列的に測定された絶縁油中の溶存ガス量に基づいて、油入変圧器の寿命を予測するシステムであって、油入変圧器が正常に運転していると仮定した場合に、現在の溶存ガス量がとり得る変動範囲を溶存ガス量の過去の測定データから確率的に推定する変動範囲推定手段、現在の溶存ガス量の測定結果と推定された変動範囲とを比較することにより、油入変圧器が正常に運転しているか否かを判定する判定手段、および判定手段によって油入変圧器の正常運転が判定されたときに、溶存ガス量の現在までの経時変化に基づいて、溶存ガス量が予め定められたしきい値に到達する時期を寿命到達時期として予測演算する予測演算手段を備えている。
【0011】請求項5に係る発明は、請求項4の発明において、絶縁油中に溶存するCOガスとCO2 ガスとの量に基づいて、油入変圧器の寿命を予測することを特徴とする。
【0012】
【作用】請求項1に係る発明においては、絶縁油中の溶存ガス量の過去の測定データに基づいて、正常運転時の溶存ガス量の変動範囲を確率的に推定し、現在の溶存ガス量の測定結果と推定された変動範囲とを比較することにより、油入変圧器が正常に運転しているか否かを判定する。そして、油入変圧器が正常に運転していると判定されたときに、現在の溶存ガス量の測定結果に基づいて、油入変圧器中の絶縁紙の平均重合度残率を演算するようにしている。演算により求められた絶縁紙の平均重合度残率は、油入変圧器の劣化状態を表す指標として用いられる。
【0013】請求項2に係る発明においては、現在の溶存ガス量の測定結果が変動範囲推定手段によって推定された変動範囲内に入っているか、上側にはみ出ているか、下側にはみ出ているかを調べ、各場合に応じて油入変圧器のより詳細な状態診断を行っている。
【0014】請求項4に係る発明においては、絶縁油中の溶存ガス量の過去の測定データに基づいて、正常運転時の溶存ガス量の変動範囲を確率的に推定し、現在の溶存ガス量の測定結果と推定された変動範囲とを比較することにより、油入変圧器が正常に運転しているか否かを判定する。そして、油入変圧器が正常に運転していると判定されたときに、溶存ガス量の現在までの経時変化に基づいて、溶存ガス量が予め定められたしきい値に到達する時期を予測演算するようにしている。予測演算により求められたしきい値到達時期は、油入変圧器のおおよその寿命到達時期を示している。
【0015】
【実施例】まず、後述する本発明の一実施例の原理について説明する。油入変圧器が正常に運転していると、絶縁紙が低温分解されて一酸化炭素および二酸化炭素(CO+CO2 )が発生する。発生したCO+CO2 は、絶縁油中に溶解する。したがって、絶縁油中に溶存しているCO+CO2 の量を分析すれば、絶縁紙の現在の劣化状態および将来の劣化の進み具合を推測することができると考えられる。そこで、本願発明者は、種々の文献に開示された過去の測定データを調査し、さらに100台の油入変圧器に対して測定を行った。その結果、絶縁紙の平均重合度残率と絶縁油中に溶存しているCO+CO2 との間には、相関関係があることが判明した。
【0016】図2は、過去の測定データを調査することよって得られた、絶縁紙の平均重合度残率と絶縁油中に溶存しているCO+CO2 との間の相関関係を示すグラフである。図2において、横軸は絶縁紙1g当たりのCO+CO2 の体積量(単位は、ml/g)を対数目盛で表し、縦軸は平均重合度残率(%)を平等目盛で表している。一般的に、平均重合度残率が20%〜30%になると絶縁紙の機械的強度が無くなったと言われており、事実上40%〜60%が油入変圧器の寿命だと言える。図2のグラフからは、CO+CO2 の体積量が絶縁紙1gに対して1ml(ミリリットル)のときに、平均重合度残率が60%になることが判る。
【0017】本願発明者は、図2のグラフの横軸を対数目盛から平等目盛に変換し、さらに100台の油入変圧器に対して行った測定データを加味して、図3に示す相関関係グラフを作成した。図3において、変化曲線Aは、絶縁紙の平均重合度残率と絶縁紙1gに対するCO+CO2 の体積量との相関関係に近似する3次関数曲線を示している。また、図3において、変化曲線Bは、図2に示す相関関係に近似する2次関数曲線を示している。この図3から明らかなように、平均重合度残率が60%〜40%の付近では、2次関数曲線Bよりも3次関数曲線Aの方が上記相関関係に近似していることが判る。
【0018】今、xを絶縁紙1gに対するCO+CO2 の体積量(ml/g)とし、yを平均重合度残率(%)とし、図3の3次関数曲線Aを、y=a・x3 +b・x2 +c・x+d …(1)
で表すものとする。そして、過去の測定データおよび新たに行った実測データを基に上式(1)の各係数を求めると、a=−2.06b=17.99c=−56.52d=98.00となった。したがって、上式(1)は、 y=−2.06x3 +17.99x2 −56.52x+98.00 …(2)
となる。
【0019】そこで、以下に説明する実施例では、上式(2)を利用して絶縁紙の現在の平均重合度残率を間接的に演算して油入変圧器の現在の劣化状態を示す指標とするとともに、絶縁紙1g当たりのCO+CO2 の体積量が1mlに到達する時期すなわち平均重合度残率が60%に達して油入変圧器の寿命が尽きる時期を予測するようにしている。
【0020】ところで、何らかの原因で油入変圧器に故障が発生し、その内部に短絡や部分放電等が生じていると、絶縁紙が高温分解されてCOおよびCO2 が大量に発生する。そのため、上記のような劣化診断方法および寿命予測方法を、油入変圧器にそのまま適用すると、油入変圧器の正常運転時には問題ないが、故障発生時に正確な診断および寿命予測を行うことができない。そこで、以下に説明する実施例では、溶存CO+CO2 量の過去の測定データから現在の油入変圧器が正常運転状態にあるか否かを判断し、正常運転状態にあるときのみ溶存CO+CO2 量に基づいて、現在の劣化状態および将来の寿命到達時期を求めるようにしている。
【0021】図1は、この発明の一実施例に係る油入変圧器の診断および寿命予測システムの構成を示すブロック図である。図1において、ガス量分析計2は、ガスクロマトグラフィー装置やエアーバブリング方式の簡易分析計等によって構成され、各油入変圧器11〜1nからサンプリングされた絶縁油を分析し、当該絶縁油中に溶存している所定のガス成分の量を検出する。ガス量分析計2の分析結果は、データ処理装置3に与えられる。データ処理装置3は、パーソナルコンピュータやマイクロコンピュータ等によって構成され、ガス量分析計2の分析結果に基づいて、油入変圧器の劣化状態および寿命到達時期を演算する。データ処理装置3の演算結果は、表示器4およびプリンタ5に出力され、そこにおいて表示および印字される。また、データ処理装置3には、データベース記憶装置6が接続される。このデータベース記憶装置6中には、油入変圧器11〜1nに関する種々のデータが記憶されている。
【0022】次に、図4および図5を参照して、上記実施例の動作を説明する。まず、図4のステップS1では、油入変圧器11〜1nの中のいずれか1つから絶縁油が所定量(ガス分析計2での分析作業に必要な量;約50cc程度)だけサンプリングされる。このとき、油入変圧器の下部において熱対流を起こさずに残留している絶縁油を採取しないように注意する必要がある。なぜならば、このような残留油は変圧器内を対流移動しないため、絶縁紙の劣化に起因して発生するガスが溶融されにくいからである。
【0023】次に、ガス量分析計2は、ステップS1でサンプリングされた絶縁油を真空脱気またはエアーバブリングすることによって当該絶縁油中から溶存ガス成分を追い出して分離し、その分離されたガス成分の組成および量を分析する(ステップS2)。これによって、目的ガスの溶存量(単位体積当たりの絶縁油中に溶存しているガス成分の体積量)が検出される。なお、本実施例では、ガス量分析計2は、一酸化炭素(CO),二酸化炭素(CO2 ),水素(H2 ),メタン(CH4 ),アセチレン(C2 H2 ),エチレン(C2 H4 ),エタン(C2 H6 ),プロピレン(C3 H6 ),プロパン(C3 H8 )等の溶存量を検出している。ガス量分析計2によって検出されたガス溶存量は、例えばppmの単位で示される。
【0024】次に、今回の診断の対象となる油入変圧器の番号、すなわち上記ステップS1で絶縁油がサンプリングされた油入変圧器の番号が指定される(ステップS3)。この指定は、オペレータがデータ処理装置3に付属するキーボード等の入力装置(図示せず)を操作することによって行われる。油入変圧器番号が指定されると、データ処理装置3は、データベース記憶装置6から対応する油入変圧器のデータファイルを読み出す(ステップS4)。このデータファイル中には、対応する油入変圧器に関する種々のデータ(容量,定格電圧,製造年月日,製造番号,製造者等の諸属性データや、各目的ガスの溶存量の過去の測定データや、絶縁油をサンプリングした日時のデータ等)が格納されている。
【0025】次に、データ処理装置3は、上記ステップS2で測定された各目的ガスの溶存量をガス量分析計2から入力する(ステップS5)。次に、データ処理装置3は、ステップS5で入力された各目的ガスの溶存量と各目的ガスについて予め定められたしきい値とを比較し、変圧器の現在の状態を判定する(ステップS6)。もし、複数種類の目的ガスの内、1種類でもその溶存量が予め定められたしきい値を越えていると、データ処理装置3はその油入変圧器に重大な異常が生じていると判定する。次に、データ処理装置3は、上記ステップS6の判定結果および上記ステップS5で入力された各目的ガスの溶存量を、ステップS4で読み出されたデータファイルに登録する(ステップS7)。
【0026】次に、データ処理装置3は、過去の(例えば、前回までの)溶存CO+CO2量の測定データから正常運転時における溶存CO+CO2 量の推移予想グラフを作成し、この推移予想グラフと今回の溶存CO+CO2 量の測定結果とを比較する(ステップS8)。以下には、この推移予想グラフの作成方法について説明する。
【0027】油入変圧器の運転状態が正常であれば、溶存CO+CO2 量の推移は、時間をx,溶存CO+CO2 量をyとすれば、ほぼ一次関数y=ax+bに従うことが経験上知られている。
【0028】今、溶存CO+CO2 量が、例えば図6に示すように経時変化したとし、最小二乗法により係数a,bを求めることにする。ここで、【数1】

 

とすると、次の連立方程式(3)を解くことにより、係数a,bを求めることができる。
【数2】

 

【0029】上式(3)を解いて、係数a,bを求めると、a=(u−Nb)/Sb=(tu−Sv)/(tN−S2 )
となり、一次関数y=ax+bは、次式(4)となる。
y={(u−Nb)/S}x+{(tu−Sv)/(tN−S2 )}
…(4)
【0030】上式(4)を用いれば、将来の溶存CO+CO2 量の推移を予測できる。しかしながら、種々のファクターの影響により、溶存CO+CO2 量は不確実的に推移していくため、本実施例では溶存CO+CO2 量は有る範囲を持って推移していくものと考える。すなわち、係数bは、標準偏差σb を持つものと考える。また、係数aは、今後の推移の速さ(傾き)を示すものであり、寿命の予測に重要であるので、これも標準偏差σa を持つものと考える。
【0031】後述するように、本実施例では、上記標準偏差σa ,σb を、「測定値に乱数を加えて最小二乗法によりa,bを求める」という試行を十分大きな回数(例えば、100回)行って求めることにする。このような方法は、一例に過ぎず、他の方法により標準偏差σa ,σb を求めてもよい。
【0032】次に、このような方法による標準偏差σa ,σb の求め方について説明する。今、過去の溶存CO+CO2 量の測定データから最小二乗法だけで求めた溶存CO+CO2 量の推移を示す一次関数をy=ax+bとする。そして、次式(5)を演算することにより、yi(j)を求める。
yi(j)=axi +b+ri(j) …(5)
ただし、上式(5)において、i=0,1,…,N−1である。また、ri(j)は、平均が0で測定値と同じ標準偏差を持った正規分布に従う乱数である。また、j=0,1,2,…,M−1(Mは試行回数を示し、例えば100)である。また、xi は、実際の測定日である。
【0033】次に、xi ,yi(j)より最小二乗法で係数a(j) ,b(j) を求める。これをM回試行し、次式(6),(7)から標準偏差σa ,σb をそれぞれ求める。
【数3】

 

【0034】溶存CO+CO2 量が今後推移する直線を、y=a'x+b'とすると、係数a'(またはb')が、a−kσa からa+kσa の間(またはb−kσb からb+kσb の間)で推移する確率は、換言すると、変圧器が正常運転していると仮定したときに、溶存CO+CO2 量が、第1直線:y=ax+b+kσb +kσa (x−xN-1 )
第2直線:y=ax+b−kσb −kσa (x−xN-1 )
の間の領域内で推移する確率は、k=1のとき約68.3%k=2のとき約95.4%k=3のとき約99.7%となる。なお、上記第1直線は図6における直線αであり、上記第2直線は図6における直線βである。また、xN-1 は、前回の測定値である。
【0035】次に、データ処理装置3は、ステップS8での比較の結果、今回の溶存CO+CO2 量の測定結果が、第1直線αと第2直線βの間の領域(図6の領域■)内に入っているか否かを判断する(ステップS9)。今回の溶存CO+CO2 量の測定結果が、上記領域■内に入っている場合は、変圧器が正常運転している可能性が極めて高いため、データ処理装置3は、まずCOとCO2 との比(CO/CO2 )を演算する(ステップS10)。次に、データ処理装置3は、CO/CO2 が所定の値(例えば0.2)を越えているか否かを判断する(ステップS11)。CO/CO2 が0.2以上の場合、データ処理装置3は、変圧器が故障していると判定し、後述する故障処理を実行する。一方、CO/CO2 が0.2未満の場合、データ処理装置3は、変圧器が正常運転していると判定し、正常処理を実行する。
【0036】一方、前述のステップS9において、今回の溶存CO+CO2 量の測定結果が上記領域■内に入っていないと判断された場合、すなわち第1直線αよりも上の領域(図6の領域■)または第2直線βよりも下の領域(図6の領域■)に入っていると判断された場合、データ処理装置3は、オペレータに再度絶縁油をサンプリングさせ、その分析を行わせる(ステップS9a)。そして、データ処理装置3は、この2回目の測定結果における溶存CO+CO2 量が領域■の範囲を外れているか否かを再度判断する(ステップS12)。2回目の測定結果における溶存CO+CO2 量が領域■の範囲内の場合、データ処理装置3は、1回目の測定結果に許容値以上の誤差が生じていたと判定し、2回目の測定結果に基づいてステップS10以下の動作を実行する。一方、2回目の測定結果における溶存CO+CO2 量が1回目の測定結果と同様、領域■の範囲を外れている場合、データ処理装置3は、変圧器に故障が発生していると判定し、故障処理を実行する。
【0037】次に、図5を参照して、上記正常処理時の動作を説明する。データ処理装置3は、まず測定結果の温度補正を行う(ステップS13)。なぜならば、COおよびCO2 は低温では絶縁紙に吸収され易いが、80℃以上になると吸着されなくなるからである。ここでは、次式(8)および(9)を用いて、COおよびCO2 の体積量を80℃時の体積量に補正している。
M(CO) =M1 ×exp[560{(1/T)−0.0028}]
…(8)
M(CO2 )=M2 ×exp[2260{(1/T)−0.0028}]
…(9)
上式(8)および(9)において、M1 は温度t℃時のCOの体積量であり、M2 は温度t℃時のCO2 の体積量である。また、Tは絶対温度(273+t℃)である。上式(8)および(9)からCO+CO2 の80℃時の体積量は、M(CO)+M(CO2 )
となる。
【0038】次に、データ処理装置3は、絶縁紙1gに対するCO+CO2 の体積量(ml/g)を演算する(ステップS14)。すなわち、サンプリング油から検出され、かつ温度補正されたCO+CO2 の体積量M(CO)+M(CO2 )を全油量に対する体積量に換算し、その換算された体積量を絶縁紙の総重量で除算することにより、絶縁紙1gに対するCO+CO2 の体積量が求められる。次に、データ処理装置3は、ステップS13で求めた絶縁紙1gに対するCO+CO2 の体積量を前述の式(2)に代入し、現在の絶縁紙の平均重合度残率を演算する(ステップS15)。
【0039】次に、データ処理装置3は、変圧器の寿命到達時期を演算する(ステップS16)。この演算は、前述の第1直線の式y=ax+b+kσb +kσa (x−xN-1 )
を変形して得られる次式(10)に基づいて行われる。
xL ={yL −(b+kσb −kσa xN-1 )}/(a+kσa )
…(10)
なお、上式(10)において、xL は寿命の到達時期である。また、yL は、絶縁紙の寿命到達時(平均重合度残率が60%に到達するとき)のCO+CO2 の体積量(例えば、1ml/g)である。
【0040】参考のために、上式(10)で演算された寿命到達時xL の後に変圧器の寿命が尽きる確率は、k=1のとき84.13%k=2のとき97.72%k=3のとき99.87%である。通常、変圧器の寿命を予測する場合、安全係数を見込んで実際よりも早めに寿命が尽きると予測するほうが好ましい。もし、予測よりも早く変圧器の寿命が尽きた場合、それを用いたシステムに重大な悪影響(停電等)を及ぼすからである。本実施例では、上記の確率値から明らかなように、寿命到達時xL の前に変圧器の寿命が尽きる確率は極めて小さい。したがって、上記のような重大な悪影響を生じることがない。次に、データ処理装置3は、変圧器が正常であることの判定結果および変圧器の寿命が到達する時期の予測結果を、表示器4およびプリンタ5に出力し、表示および印字させる(ステップS17)。
【0041】次に、図5を参照して、故障処理時の動作を説明する。前述のステップS12において、変圧器に故障が生じていると判定されると、データ処理装置3は、前述のステップS2で分析測定した各ガス(CO,CO2 ,H2 ,CH4 ,C2 H2 ,C2 H4 ,C2 H6 ,C3 H6 ,C3 H8 等)の組成比を調べ、その組成比に基づいて変圧器の故障原因を解析する(ステップS18)。これは、変圧器の故障原因に応じて発生するガスの種類が異なるからである。次に、データ処理装置3は、ステップS2で分析測定した各ガスの将来の推移を確率的に予測し(ステップS19)、その予測結果に基づいて各ガスについてのしきい値到達時間を演算する(ステップS20)。次に、データ処理装置3は、変圧器が故障していることの判定結果およびその故障によって変圧器の寿命が到達する時期の予測結果を、表示器4およびプリンタ5に出力し、表示および印字させる(ステップS17)。
【0042】なお、上記実施例では、絶縁油中に含有されるCO+CO2 の体積量に基づいて、絶縁紙の現在の平均重合度残率および将来において絶縁紙の平均重合度残率が所定値以下に低下する時間を演算するようにしているが、絶縁油中に含有されるその他の不純物成分(たとえば、フルフラール)に基づいて絶縁紙の現在の平均重合度残率および将来において平均重合度残率が所定値以下に低下する時間を演算するようにしてもよい。
【0043】
【発明の効果】請求項1に係る発明によれば、絶縁紙を採取することなく変圧器の劣化状態を測定できるので、測定作業を極めて簡単かつ迅速に行えるとともに、停電等の不都合を生じることもない。また、油入変圧器が正常に運転していると判定されたときにのみ、現在の溶存ガス量の測定結果に基づいて、油入変圧器中の絶縁紙の平均重合度残率を演算するようにしているので、変圧器の故障時に誤った演算結果が出力されることがなくなる。
【0044】請求項2に係る発明によれば、現在の溶存ガス量の測定結果が変動範囲推定手段によって推定された変動範囲内に入っているか、上側にはみ出ているか、下側にはみ出ているかを調べるようにしているので、油入変圧器のより詳細な状態診断が行える。
【0045】請求項4に係る発明によれば、絶縁紙を採取することなく変圧器の寿命を予測できるので、予測作業を極めて簡単かつ迅速に行えるとともに、停電等の不都合を生じることもない。また、寿命の予測ができる結果、油入変圧器の点検回数を大幅に低減でき、点検のためのコストを削減できる。また、油入変圧器が正常に運転していると判定されたときにのみ、現在の溶存ガス量の測定結果に基づいて、油入変圧器の寿命を予測演算するようにしているので、変圧器の故障時に誤った演算結果が出力されることがなくなる。



【図面の簡単な説明】
【図1】この発明の一実施例に係る絶縁紙の劣化測定および寿命予測システムの全体構成を示すブロック図である。
【図2】CO+CO2 ガスの発生量と絶縁紙の平均重合度残率との相関関係を示すグラフである。
【図3】CO+CO2 ガスの発生量と絶縁紙の平均重合度残率との相関関係を示すグラフであり、図2に示すグラフを平等目盛に変換し、さらに実際に使用されている油入変圧器を実測して得られたものである。
【図4】図1に示す実施例の動作を示すフローチャートである。
【図5】図1に示す実施例の動作を示すフローチャートである。
【図6】CO+CO2 ガスの発生量の経時変化を示すグラフである。
【符号の説明】
11〜1n…油入変圧器
2…ガス量分析計
3…データ処理装置
4…表示器
5…プリンタ
6…データベース記憶装置

 
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